【中学生柔道選手における減量の実態】
2014年5月26日
出雲市民病院
理学療法士 妹尾翼
昨年度、中学校柔道部の先生方、選手の皆様にご協力頂き、メディカルチェックと減量に対するアンケート調査を実施しました。今回は、その結果よりわかった減量の実態を報告させて頂きたいと思います。
研究の対象は、中学校18校の2、3年生124名としました。
124名中、減量経験者は58名(47%)でした。
減量経験者のうち、1週間に1㎏以上の不適切な減量期間で減量を実施していた選手は31名(53%)、絶食や脱水法による不適切な減量方法を実施していた選手は40名(69%)おり、不適切な減量期間・方法に該当する選手は52名(90%)でした。
減量中の身体・精神状態は、「体がだるい、疲れやすい、イライラする、集中力が続かない、めまいがする」等の回答をした選手が41名(71%)で、減量が心身に悪影響を及ぼすことが示唆されました。
不適切な減量が心身機能に及ぼす悪影響について、過去の研究より、多数の報告があります。生理機能に及ぼす影響として、アメリカスポーツ医学会は筋力低下、無酸素作業能力の低下、心血管系機能の低下、酸素摂取量の低下、体温調節機能の低下、腎血流量の低下、筋および肝のグリコーゲンの枯渇、電解質の枯渇を挙げています。また、脱水による5~8%の体重減少は脱力や頭痛、めまい、呼吸数上昇などの症状が生じ、10%以上になると循環不全や腎不全が生じるという報告があります。さらに、活気の低下や疲労感の増大など心理面への影響や、免疫機能の低下などを引き起こすという報告や、女子選手において食事制限や過剰に運動をすることによるストレスがホルモンバランスを崩し、これが生理不順・無月経を招き、貧血や疲労骨折のリスクが高まるという報告もあります。
このように、不適切な減量は心身機能に多数の悪影響を及ぼし、選手のパフォーマンスを下げてしまいます。今回の調査では、減量経験者の90%が不適切な減量を行っており、71%の選手が何らかの悪影響を体感していることがわかり、減量を実施している大多数の選手が万全のコンディションで試合に臨めていないということがわかりました。
それでは、どのように減量を実施すれば良いのでしょうか?
まず、減量をする条件として除脂肪体重(体脂肪を除いた筋肉や骨、内臓)を考えなければなりません。減量とは体脂肪を減少させることが目的です。しかし、もともと体脂肪が少ない選手は食事制限や脱水による無理な減量を強いられ、結果的に除脂肪体重が減少してしまいます。これが、心身機能に悪影響を及ぼしますので、個々の選手に合わせて減量をするかどうかを判断する必要があります。
また、短期間での減量も無理な減量方法を行ってしまいますので、大会日から逆算して1週間に1㎏の減量を目指すように設定する必要があります。
食事は制限するのではなく、五大栄養素であるタンパク質、ビタミン、ミネラル、糖質、脂質をバランス良く摂取することが大事です。また、脱水を引き起こさぬ様、水分摂取は十分にする必要があります。
以上、簡単に対策案を挙げましたが、選手が適切な減量を実施するためには、指導者の先生方、保護者の皆様、選手自身が減量に対する知識を共有し、選手をサポートしていく環境を作っていくことが必要だと考えます。そのために、私自身も、これからより知識を深め、より良いものを発信していけたらと思います。
最後に、今回の調査にご協力して下さった各中学校柔道部の先生方、選手の皆様に深く御礼申し上げます。